ビッグデータや高度な分析ツールの誕生により、製薬会社では膨大なデータを処理し、様々な意思決定の改善を実現しています。しかし、企業が自動化に多額の投資を行っても、製造などの重要なプロセスが紙で運用されていたり、連携されていない
など、電子化された製造分野にギャップが生まれてしまっている場合、その取り組みの妨げとなってしまっているケースが多く発生しています。
製薬会社を対象として実施された最近のWebセミナーにおける調査*では、参加者の79%が紙の製造記録(バッチ記録または機器履歴簿)を使用していると回答しており、一定の電子化の製造記録を運用できていると回答したのは21%でした。この後者の数値を説明するには、ライフサイエンスにおける紙の役割について理解する必要があります。*1
企業の多くは紙運用に依存している状態を解消する必要があり、また、高度なデータテクノロジーをサポートし、市場競争を勝ち抜く為、企業は現場における電子化のギャップを解消する必要があります。
紙運用の製造記録を電子化することで、製造に関わるデータの全体像を把握することが可能となり、企業及び製造プロセス全体における人やプロセス、システム間における連携を実現することで、同分野におけるギャップを解消することに繋がります。
多くの企業では、既に様々なソフトウェアが導入されています。製造分野に導入されるITソリューションとして一般的なソフトウェアとしては、エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)や学習管理システム(LMS)、品質マネジメントシステム(QMS)、監視制御・データ収集(SCADA)などがあります。製造記録を紙媒体にて運用している場合、このようなシステムは孤立し、データが集約されていない為、「Islands of Automation(自動化による島々」とも呼ばれる状況が発生しています。
このようなシステムでは様々なデータの生成や利用、出力といったことが行われている一方、データとしての製造記録はどこにあるのでしょうか?おそらく、紙媒体として安全な場所に保管されているケースも少なくないでしょう。
しかし、製造記録は、このような全ての記録を結びつける記録であり、電子化の観点ではそのようなシステムや情報を繋ぐ「糸」のような役割を担っています。
この電子化における「糸」の役割が重要であり、この要素を適切に押さえることで、製造記録が保持している様々な情報の価値を高めることができます。他のシステムも重要ではありますが、製造記録は紙運用されていることが多い点と、プロセスにおける重要性から注視する必要があります。
他の業界と比べて、製薬会社はプロセスの理解や文書化、その手順を順守することの重要性や継続性に優れています。また、業界全体に対して、行政を中心に様々な監視体制が敷かれていてる点も影響しています。しかし、製造記録を紙で運用している場合、業務に関わるデータは全て紙で管理されています。
製造工程を「開始」と「終了」、「中間プロセス」と定義した場合、企業は開始と終了については的確に把握できている一方、中間プロセスについては、その仕様の把握までになってしまうことが多いです。例えば、「開始」の段階と定義されるのは原材料や作業指示書などのインプットから構成され、「終了」は歩留まりや廃棄、製造記録などのアウトプットから構成されています。そして、仕様としての中間プロセスとは、製造工程の全体を記録する指図書原本や記録書原本を意味しています。
しかし、製造が終了すると、製造記録は書庫に保管されるだけとなりがちな一方、製造ラインやシフト毎の過去の製造記録には貴重なデータが含まれています。しかし、紙運用を行なっている場合、そのような貴重なデータを十分に活用することができません。
そこで、製造記録を電子化することで、それまでは紙媒体に閉じ込められていたロットやバッチといった製造工程や製造記録に関するデータを可視化し、比較分析や継続的改善に繋げることができます。また、日毎や四半期、年毎などで製造実績を比較したり、サイトやチーム等で比較を行うことで、改善に必要なデータを抽出することができます。
製造に関わる記録に対して、工程の始まりから最後までの全ての情報を集約することによる可視性を得ることで、担当者毎の業務効率やミスの発生状況、シフト毎のラインの稼働率など、電子化を実現することで、従来では把握できなかった様々な情報を活用することができます。
紙運用の製造記録を電子化することで、製造分野におけるギャップを解消し、人的ミスを大幅に削減するとともに、下記のような多くのメリットを得ることができます。
品質は、製造システムの外ではなく、その内部に組み入れられるべきです。製造の担当者は、品質の担当者と同様に、高品質な製品の製造を目指しており、より高い品質を実現するには、実施しなくてはいけない施策があります。
製造記録を電子化することは、企業にとってはガイダンスのように機能させることが可能であり、担当者によりミスの発生の削減や、適切なプロセスにて運用する正確性を高めることができます。また、データの整合性や可視性の向上を通じて製造プロセスを最適化することで、製造分野におけるギャップを解消することができます。そして、常に質の高いデータを通じて運用することで、より優れたスマートなプロセスや管理につなげることができるのです。